2010年9月下旬から、統計的機械翻訳というものを担当している。Google翻訳で採用され、一躍脚光を浴び始めた、比較的新しい技術である。この仕事にかかわり始めて、自分が最も輝いていた頃の感覚と重なることが多くなった。
これまでは、ずっと、
- 個人の生活を豊かにする事業にかかわりたい。
- 通信業界かWeb案件のどちらかにつながっていたい。
- いずれは経営者になるべきで、そこにつながる道を歩みたい。
と考えていたので、統計的機械翻訳は何も当てはまるものがない。むしろ、ローカライズの世界にどっぷりはまるようで、ちょっと避けたいとさえ思っていた。にもかかわらず、自分が最も輝いていた頃の感覚と重なることが多いのだ。
そして、つい先日、自分はどういう状態に満足するかに気付いた。それは、
- 前例の少ない、最先端の分野であること。
という、極めてシンプルなものだった。そして、このシンプルな法則が、自分が最も輝いていた頃に、すべて一致するのだった。
- Webとの出会いとWebコンテンツ制作
- ブラウザの日本語化も不完全で、WebサーバもUnixのみ。
- HTMLの情報もほぼ皆無で、あったとしても英語のみ。
- コンテンツ制作ができる人は少なく、Photoshopも独学。
- 即時電子決済を伴うWebサイトの構築
- 当時は、日本に即時電子決済のWebサイトの事例なし。
- SETというIBMが中心になって提唱したプロトコルも日本での採用はほぼ皆無。
- 使用したIBMの製品も日本語版がなく英語版のみ。
- ケーブルインターネット事業を行なうCATV会社でのWebマスター
- 当時は日本で唯一のブロードバンドがケーブルインターネット。(ADSLの上陸前。)
- MSOという日本のCATVでは珍しかった経営形態。
- 企業におけるWebサイトの重要性が叫ばれ始めた時代。
そして、あの頃と同じように、統計的機械翻訳にも、このシンプルな法則が当てはまる。
- 統計的機械翻訳
- 欧米言語間では実用化が進んでいるが、日本語は大学での研究が中心で、民間企業における実用はこれから。
- 日本語の情報は少なく、欧米言語を対象にした英語での情報がほとんど。
- 欧米言語にはない、日本語特有の対応が必要で、工夫の余地が大きい。
今の会社では、長らく社内ITインフラの改善に携わってきたが、経営陣にはコア事業じゃないんだから人もカネもかけなければかけないほど望ましいということを言われ続け、そこに対する不満も大きかった。ITを活用すれば、仕事のやり方を変えることもできるというのは、10年以上も前から言われていることなのに、経営陣はこの規模の会社には必要ないという認識だった。
しかし、統計的機械翻訳は、会社の戦略上、非常に重要な位置付けだし、ITを活用しなければ実現できないコア事業でもある。(実際には、ITは必要な要素の1つに過ぎず、統計的機械翻訳の理論に加え、統計学や言語学など、幅広いスキルが必要とされる。)それに加えて、自分で見出したシンプルな法則も当てはまる。正直、同業他社の統計的機械翻訳の状況が完全に見えているわけではないが、伝え聞いた範囲では、先頭集団を走っているという実感がある。今なら、このネタで修士論文が書けるというくらいの自信はある。それくらいの手応えを感じている。
この10年間は、会社人生においては、低迷期そのものだった。そこで一緒に仕事をしてきた方には申し訳ないが、自分にとってはそうだった。でも、「前例のない、最先端なことにかかわれること。その状態に自分は満足する。」という、シンプルな法則に気付くために必要な時間だったんだと思う。
同時に、自分の思い込みから解放されたことにより、可能性がすごく広がった気がする。このシンプルな法則に当てはまるものは、数多く存在するからである。統計的機械翻訳も、あと2-3年もすれば、どの会社も当たり前のように使う、成熟した技術になると思う。でも、このシンプルな法則のおかげで、次の興味の対象はいくらでもあるはずだ。
今日で41歳になった。もがき苦しんだ30代を経て、40歳の終わりに、ようやく長い長い暗闇から脱することができた。この先もいろんなことがあるだろうが、仕事に関しては、自分で見出したシンプルな法則に身を委ねようと思う。この先、自分がどう成長していくのか、楽しみだと思えるようになった。
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