前回は、Mosesを中心に某I社独自のシステム化を行なった際のお話をしました。今回は、意外な発見と3.11のときのお話です。
まさか
システム化は一段落がついたので、1月下旬から保留になっていた品質改善に、再び取り組むことにしました。何から手を付けようかという感じでしたが、そのヒントを探るため、もう一度、2010年末に行なったQA担当者による評価の結果に目を通すことにしました。
何故、こんなことを思い付いたのかは覚えていませんが、ふと、基本的な疑問が湧きました。「Mosesによるチューニング結果は、常に同じなんだろうか?」と。当然、何度チューニングしても結果は同じだろうと決め付けて、疑ったこともなかったので、検証してみようと思ったことすらありませんでした。
早速、実験をしてみましたが、なんと、チューニングをするたびに結果が変わるではないですか! しかも、チューニングの結果次第で、デコード結果がかなり変化します。同じ言語モデルと翻訳モデルを使っているのにです。大きな落とし穴でした。。
原文 | Moves user configurations (views, mapped attributes, and so on) from one instance to another through an intermediate export file. |
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機械翻訳 (チューニング#1) | エクスポート・ファイルに移動します。1つのインスタンスを別の中間(ビュー、マップ済属性など)を介してからユーザー構成 |
機械翻訳 (チューニング#2) | ユーザー構成(ビュー、マップ済属性など)には、中間的なエクスポート・ファイルを使用してインスタンス間で移動します。 |
原文 | The Footer page that displays is based upon the page template you selected on the Name and Definition page in Step 7 (either Default Page Template or Custom Page Template). |
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機械翻訳 (チューニング#1) | 手順7で「フッター」ページで選択したページ・テンプレートに基づいています。「名前および定義」ページが表示されたいずれかのデフォルト・ページ・テンプレートまたはカスタム・ページ・テンプレートなど) |
機械翻訳 (チューニング#2) | 手順7で「名前および定義」ページで選択したページ・テンプレートが表示された「フッター」ページ(デフォルト・ページ・テンプレートまたはカスタム・ページ・テンプレートなど)に基づいています。 |
このときから、通常は3回、最低でも2回はチューニングを行ない、最もよいチューニング結果を採用するようになりました。筆者の知る限り、こんなことはどこにも書かれていなかったので、本当に気付いてよかったです。
300万センテンスの処理中に
2月にシステム化を行なっている間に、上司のGさんが過去の翻訳資産を更に集めてくださり、ついに300万センテンスものパラレル・コーパスが出来上がりました。今回は、ソフトウェアで使われている画面メッセージやボタン名など、ドキュメント以外のコーパスも多く含めたので、純粋に文章が300万センテンスというわけではありませんが、それでも従来の100万センテンスと比較して、更なる品質向上が期待できます。
そして、この300万センテンスを使って翻訳モデルを作る処理の最中に、東日本大震災が起きました。某I社は神奈川県の内陸部にあるため、被害はほとんどなかったものの、建物はかつてないほど激しく揺れ、普通は動くはずのないラックが大きくずれたり、PCが倒れたりしました。
筆者は、偶然にも午後だけ休暇を取っていたため、都内の自宅そばにいたのですが、生まれて初めて死を意識したほどの揺れとは対照的に、自宅は拍子抜けするくらい何事もなく、帰宅難民になることもなかった上に、家族や会社とも比較的スムーズに連絡が取れたのは、本当にラッキーでした。
週が明けた月曜日、首都圏の交通網がパニック状態の中、普段の倍以上の時間をかけて、何とか出社しました。そこで、初めて気が付きました。あの歴史的な大震災の中、Mosesは動き続け、300万センテンスのパラレル・コーパスから翻訳モデルを作り終えていたのです。これには、ちょっとした感動を覚えました。
しかし、この日から、計画停電との戦いになりました。日替わりで変化する停電の時間帯にあわせて、毎日、サーバー類のシャットダウンと起動の計画を立てる必要がありましたし、Mosesでの処理はまとまった時間が必要になるため、下手に処理を始めることもできません。状況が落ち着くまで、Mosesどころの話ではなくなってしまいました。
次回は長文対策の発見です。
[注] この回顧録は、かつて勤めていた会社で書いた連載を復元したもので、某I社の現在の状況を反映している訳ではありません。